ぱからん、はからん

ものつくりの、ものかき。

そっちの世界との仲介者

はじめて文章を書いたのはいつだったか。

 

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はじめて小説を書いたのはきっと小学生だ。

推理小説の読み過ぎで、

よくあるような書き出しの、

これまた書き出しだけで終わる小説だった。

どんな文章だろうと、娘の「傑作」を褒めてくれる母に

私は得意げだった。

 

中学のとき、社会の授業の宿題で、

歴史小説を書くことになった。

原稿用紙何枚分だったか、

主人公に感情移入しすぎて、

号泣しながら書いたのを覚えている。

 

小説の登場人物は、

私の横で

一生懸命その人生を生きるひとりなのだ。

自分と重なることも、

友人と重なることも、

もちろんある。

だけど、その物語のなかで動き出したら、

私は仲介者のひとりなのだ。

 

彼らの話し声を

耳をすませて書き取る。

はっきりと聞き取れないときもある。

自分をその世界にしっかり置かないと、

こちらから覗いていても分厚いガラスを隔てた世界なのだ。

 

彼らの世界にチューニングできたとき、

その会話が自然と聞き取れる。

私は彼らの人生に立ち会えることになる。

 

どうやったら、

彼らの見ている世界を、

鮮やかに感じられるように書けるのか。

間に立ってそれを伝えられるのか。

 

そっちの世界に入り込むと、

私の立っている世界との境界はあやふやになってしまう。

時間の感覚もなくなってしまう。

小説の中が夏なら夏だ。

 

自分で書いているときも、

小説を読んでいるときも。

 

こちらの世界で生きている大切な人たちが、

私を引っ張り戻して、

 

ほら、こっちだよあなたが生きているのは。

 

とやってくれることに、

しばらくたゆたいながら

にやにやするのだ。